ハリとお灸の話
最近は何かと、東洋医学のことがテレビで取り上げられます。
その時によく出てくるのが経絡という言葉です。
経絡とは何でしょうか。
それは、鍼灸治療に用いられる概念で、主に経脈と絡脈から
なっています。
鍼灸治療とは、「やった、効いた、治った」という事実に基
づいた経験医療です。
身体に痛みがあり、体表の一部分を指で押さえるとラクになった。
古代中国人は、そんな体験を大量に積み上げ、長い年月をかけ伝承し、
そうしてできてきたのがツボです。
さらに、膨大なツボの中から、内臓と体表・手足を結び付け、
人体をタテに分割する、12のラインを発見し、これを12経脈
と名づけました。
また、12の経脈に付き従い、タテとヨコにまとうような8つの
ラインも発見し、奇経と名づけました。これらがいわゆる経絡です。
では、経絡の働きとは何でしょうか。
『東洋医学』(学研、昭54年) によれば、経絡とは、内臓と体表に
分布し、生命活動の基本的要素ともいう「気・血」を全身にめぐらせ
生命活動をつかさどっているものとあります。
患者さんにハリをすると約6割の方が、正に経絡に沿って身体が
温かくなると答えられます。気の作用により、血が経絡上を循環する
ため起こる現象と推察されます。
当院では介護事業を運営しています。
介護計画(ケアプラン)を作る事業と訪問介護です。
介護保険制度は2000年に始まりました。
この年を境に、介護を取り巻く状況は大きく変わりました。
それまでは、中流階級以上の世帯では、家族で介護を行っていました。
それも、主に嫁や娘が、その役割を担っていました。
一方、独居の高齢者や貧困世帯には、
国や市町村が税金で介護をおこなっていました。
ただし、施設への入居などでは、利用者に選択権はありませんでした。
ところが、核家族化が進み、女性の社会進出や少子高齢化が増えてくると、
家族だけでは、介護を支えきれなくなってきます。その結果、高齢者と家族を
社会全体で支える仕組みとして、介護保険制度が誕生しました。
介護保険の財源は、40歳以上が納める介護保険料と税金で折半し、
利用者は、希望する介護サービスを選べるようになりました。
さらに今では、ケアマネジャーや訪問ヘルパー、医師や訪問看護師など
現場の専門職の支えにより、たとえひとり暮らしでも、住み慣れた自宅で
最後まで暮らせ、希望すれば看取りまでしてもらえます。
日々の治療では、施術の一環として運動療法をお勧めすることがあります。
その中のひとつにスクワットがあります。
下半身の筋肉を鍛え、体幹の強化や良い姿勢づくりを目指します。
スクワットのやり方は、NHKの『きょうの健康』を参考にお伝えしています。
そのポイントは、以下の5点です。
1、胸の前で腕をクロスさせ、手を肩におく。
肩幅よりもやや足を広げて立ち、つま先は少し外側に向ける。
2、息を吸いながら、いすに腰掛けるように、4秒かけてお尻を後ろに突き出してしゃがむ。
3、この時、背筋(せすじ)を伸ばし、膝を90度近くまで曲げる。
また、膝頭は、足の人さし指の方に向け、つま先より前に出ないように注意する。
4、息を吐きながら、4秒かけて立ち上がり、元に戻る。
5、回数は1日、10~20回とし、痛みがあるときは無理をしない。
世界が注目する日本発のウオーキングがあります。それが「インターバル速歩」です。
「何歳からでも始めることができ、しかも誰もが確実に運動能力を維持できる」という優れものです。
そのやり方です。
ややキツめの「速歩き」と「ゆっくり歩き」を3分間ずつ、交互に繰り返します。それを1日30分、週4回やります。これだけです。
5カ月間続けると、膝を曲げ伸ばす筋力や「最大酸素摂取量」がアップし、10歳分の体力を取り戻す(10歳若返る)とのことです。(『インターバル速歩で健康になる!』宝島社)信州大学の能勢博 医学部教授が、8700人のデータを集めて開発しました。
ポイントは「速歩き」です。
ゆっくり歩く時よりも、男で5㎝、女で3㎝歩幅を広げ、自分の最大歩行速度の7割程度、ややキツくなる速さでサッサカと歩きます。無理は禁物、自分のできる範囲で行います。
おすすめの効能は次の3つです。
①足腰に筋肉がつき、インスリン感受性が向上し、空腹時血糖値の低下につながる。
②足腰の血流が良くなり、膝や腰の痛みが軽減できる。
③記憶を司る海馬の血流が増え、認知症のリスクが下がる。
新型コロナの感染予防として私は、「鼻うがい」をやっています。
鼻うがいとは、鼻の奥にある鼻咽頭(びいんとう)を、塩水で洗い流す
というものです。鼻をかんだだけでは排出しない、ホコリや花粉、
ウイルスや細菌を洗い流します。
鼻咽頭には、リンパ組織が集まっており、鼻や口から入ってくる
ウイルスや細菌を、ここで捉え、気管や肺に侵入するのを防いでいます。
チクチク療法の長田医師が、鼻うがいの手軽なやり方を報告しています。
用意するものは、食塩とお湯、それにダイソーやコーナンで売られている
小さなスポイトです。やり方は次の通りです。
① 40~50度のお湯を用意する。
② 塩水(濃度0.2%~0.3%)を作る。
③ スポイトで1ccほど吸い取る。
④ それを鼻の奥へゆっくりと流し込む。
⑤ そのとき軽く息を吸い込む。
⑥ 塩水は飲まずに、のどの奥に溜めたのち、吐き出す。
⑦ これを2~3回やり、鼻をかんで終える。
というものです。
自己体験ですが、鼻うがいをすると、鼻の通りがすっきりします。
また、鼻炎で鼻水が出る時なども、鼻水がピタリと止まり、鼻のムズムズ感
も収まります。
右肩の痛みを訴える患者さんです。
痛みは、患者さんの手が届かない、肩甲骨の内側にあります。
指で軽く押さえながら、痛むあたりを探ってみました。
すると患者さんから突然「あっ、そこそこ」と声が出ました。
ここは阿是穴(あぜけつ)というツボになります。
患者さん本人だけが分かる反応点です。
鍼灸医学では、体には14の経絡が分布し、
そこを気血が巡ると考えてきました。
そして、この経絡上でよく反応が現れる所が、
経穴(けいけつ)、いわゆるツボとして残ってきました。
現在、人体には361穴(けつ)のツボがあります。
これは2006年、WHO(世界保健機関)による国際会議を経て、合意されたものです。
解剖学のある研究によれば、ツボの多くは、
神経が骨から出る所、血管や神経が集まる所、
そして関節の周辺に分布しているとのことです。
それゆえツボへの刺激は、これらの神経や血管、関節部に直接作用を及ぼし、
疼痛の緩和、血行の促進などの治療効果が期待できるのです。
前日に転倒し、左膝を打った8歳の患者さんです。
痛みで足を付けて歩けず、おばあちゃんに付き添われ、
ケンケンしながら治療室に来られました。
徒手検査で骨折がないことを確認したのち、
腰と右膝にチクチクと施術をしました。
すると、瞬間的に痛みが解消して歩けるようになり、
治療はこの1回で終了となりました。
治療はデルマトーム理論に基づいて行いました。
デルマトームとは何か。聞き慣れない言葉ですが、
これは西洋医学の考え方です。
皮膚には、痛みや温度を感ずる感覚神経が分布し、
体表面を30等分しています。 皮膚で受けた刺激は、
この感覚神経を介し、背骨の中の脊髄へと伝わり、
脳に達して痛みや熱として感じます。 これがデルマトーム理論です。
膝をめぐるデルマトームは、腰椎の3・4・5番目と
仙椎の1・2番目から分布しており、
その走行上に刺激を加えたことで反射的に痛みが取れたと考えられます。
コロナが蔓延しています。
7月26日現在、感染者数が世界で1600万人を超え、
死者数が64万人に及んでいます。
日本でも3万人が感染し、990人以上が亡くなっています。
各国でワクチンの開発に乗り出していますが、年内の使用は困難なようです。
厄介なのは特効薬がないことです。基本的な実際の治療は、
感染者を隔離し、その人の免疫力で治るのを待つというものです。
身体からウイルスが検出されなくなるまで、ひたすら待つ。
その期間が、最大で14日間。
ウイルスを退治するのはリンパ球です。白血球の一種で、
ウイルスを捕まえ、体内から排除します。
手術直後や薬を多用していると、リンパ球数が低下し、
速やかにウイルスを退治できません。
免疫学者の安保徹医師によれば、副交感神経を優位にすることで、
リンパ球が増えると報告しています。
そのためには、心のつらい悩みや働きすぎを減らす。適度の運動と睡眠をとる。
そして、ハリ治療や温泉につかることなどを推奨しています。
現在、当院では2種類のハリを使って治療をしています。
毫鍼(ごうしん)と鍉鍼(ていしん)です。
豪鍼は、従来から使っている使い捨てのハリで、体内に1~2ミリ刺入します。
これで脈を整え、気の巡りを良くし、症状の改善の図っていきます。
主に東洋医学的処置に用います。
一方の鍉鍼は、体内には刺さず、体表面に軽く接触し、
チクチクとした痛圧刺激を加えていきます。
この痛みの刺激が、生体内に「痛いもの反射」を引き起こし、
副交感神経反応を促し、交感神経の興奮を鎮め、
自律神経のバランスを整えてくれます。
実は、痛みや腫れ、凝りやしびれのある所は、「交感神経の害」といって、
炎症があったり、神経の痛みや血行障害が起こっていたりします。
副交感神経反応はそれらを緩和してくれるのです。
治療ではこのように2種類のハリを用いて、気になる症状を改善し、
自然治癒力が高まるように導いています。
夏は蚊の季節です。
蚊に刺されてのかゆみには、お灸がよく効きます。
かゆみがもっとも強い1点を見つけ出し、
そこに爪楊枝の先ほどのお灸を3壮(そう)すえます。
かゆみが瞬時に取れます。
順天堂大学の研究によれば、蚊は人を刺すとき、唾液を送り込みます。
すると、蚊の唾液に反応して、人体内にヒスタミンが発生し、
それが神経を刺激し、かゆみを起こすとのことです。
なぜお灸でかゆみが取れるのでしょうか。
お灸は艾(もぐさ)で皮膚を焼きます。
するとその温熱刺激が、抗ヒスタミンの加熱タンパク体を生体内に発生し、
それがヒスタミンの作用を抑え、かゆみを鎮めると考えられます。
お灸の代わりにドライヤーをかけてもいいです。
かゆいところに熱風を当て、熱くなったら離します。これを3度繰り返します。
結果、お灸と同様の効果が期待できます。
ドライヤーの用途は広いです。
治療を終えた患者さんです。
腰の広い範囲がかゆいとの訴えです。
腰を出してもらい、かゆみのある一面にドライヤーを3度掛けました。
ピタリとかゆみが収まりました。